日本大通りのパン屋さん「ベーカリー三三」で、ふと旅気分を。

横浜・日本大通りには、旅のはじまりがあります。
産業貿易センタービルにあるパスポートセンターは、横浜市民にとって身近な“旅の入口”のような場所。パスポートを受け取ると、世界が少し近くなる——そんな気持ちになる方も多いはずです。
海外へ行きたい気持ちがあっても、仕事や家事、時間や予算の都合ですぐには叶わないこともあります。でも横浜には、港町ならではの空気や歴史があり、少し視点を変えるだけで旅気分を味わえる場所が見つかります。横浜で“ちいさな旅気分”を楽しんでもらえたらうれしいです。
今回ご紹介するのは、日本大通りに佇む“ベーカリー三三(さんさん)”です。
「こんなお店が、ここに」
お店のInstagramには「フランスの路地裏にひっそり佇むようなお店」と書かれています。
その言葉に惹かれて訪れたベーカリー三三。日本大通りの並木道を歩いていると、ふと現れるその姿に思わず足が止まります。

大きな看板で目立つわけではありません。けれど、旅先の街を歩いているときに出会うような「なんだか気になるお店」の空気があります。
歴史的な建物が並ぶ日本大通りの風景も、その気分を後押し。海外そのものではないけれど、日常から少し離れた場所。そんな街角に三三はありました。
明るく迎えてくれた店主の三浦さん

取材前は、パン職人と聞いて寡黙な職人像を勝手に想像していました。ところが、お会いしてすぐにそのイメージは変わります。
店主の三浦 貴之さんは明るくはつらつとしていて、終始笑顔。パンのお話はもちろん、街や旅、韓国のベーカリー事情、クラフトビールの話まで、次々と話題が広がっていきます。
こちらの質問にも丁寧に答えてくださり、気づけば取材というより楽しいおしゃべりのような時間になっていました。
お店のやわらかい雰囲気は、きっと三浦さんのお人柄そのものです。
パン屋を始めることになったきっかけ
三浦さんは、もともとフレンチの料理人。ご自身でフレンチレストランを営んでいた時期があります。その頃、東京・代々木八幡のパン屋「365日」でサンドイッチのプロデュースを手がけたことがあり、この経験がパンづくりの奥深さに触れる大きなきっかけになったそうです。

ただ、パン屋さんをやること自体には、正直あまり前向きではなかったと笑います。「朝は早いし、立ち仕事だし、休みも少ない。パン屋って大変なイメージしかなかったんですよ」と。その言葉に、思わずこちらも笑ってしまいました。
そんな中、この場所にシェアオフィスを構える仲間から「ここをもう少し華やかに彩る何かがほしい」という相談を受けます。日本大通りにはパン屋がなかったこともあり、「この通りにパン屋があったらいいよね」という話が自然と生まれたのだとか。
とはいえ、パン屋の“朝が早くて大変”というイメージは変えたい。そこで三三では仕込みの時間帯を工夫し、スタッフが負担なく働けるスタイルを整えています。働き方から、パン屋のイメージを少しずつやわらかくしていけたら—— そんな思いがあるそうです。
仲間の声と、この通りの風景に背中を押されるようにして、三三は日本大通りに誕生しました。
「三三」という名前に込められたご縁

店名について伺うと、三浦さんは笑いながら話してくださいました。
「そんな格好いい話じゃないんですよ」
お店がある場所は33番地。店主の三浦さんの「三」。さらに、ロゴや空間づくりを手がけた牧野伊三夫さんの名前にも「三」が入っています。
「じゃあ三三でいいじゃないかって」
自然な流れで決まったそうですが、後から振り返ると不思議とたくさんのご縁が重なっていた名前でもあるそうです。なんだか三浦さんらしいエピソードでした。
牧野伊三夫さんが描いた、お店の空気

三三を訪れたら、ぜひパンだけでなくお店の空間にも目を向けてみてください。ロゴやイラストを手がけたのは、エッセイストとしても知られる画家・牧野伊三夫さんです。 書籍『かもめ食堂』の装丁を手がけたことでも知られる方で、三三の紙袋や看板にも、あの作品のような温かみのある世界観が息づいています。
店内の壁に飾られた巨大なアート作品は、牧野さんご本人が数日かけて描いたもの。音楽を流しながら筆を走らせていたというお話を聞き、その風景を想像するだけで楽しい気持ちになりました。


どこか力が抜けていて、温かい。そんな空気が三三には流れています。パンを選ぶ時間も、つい長くなってしまいそうです。
フレンチ出身だからこそのパンづくり


長年フレンチの世界で活躍してきた三浦さんですが、パンづくりについてのお話も印象的でした。
「パンは意外とカチッとしているんです」
料理は感覚的な部分もありますが、パンは温度や発酵時間、配合など細かな積み重ねが大切になるそうです。
さらに三浦さんがこだわっているのが、生地にたっぷりと水分を含ませること。水分量を多くすることで、一般的なパンよりも軽やかでヘルシーに仕上がるのだそうです。三三では希少な北海道産キタノカオリの小麦を使用し、そのおいしさを最大限に引き出すために水分の扱いを丁寧に調整しています。
パン好きな人はもちろん、「パンはちょっと重たいから」と敬遠している人にも一度食べてもらいたい。三浦さんのお話からは、小麦への愛情が伝わってきました。
そしてもうひとつ、三浦さんらしいこだわりが“バター”。「フランスの風味を感じてもらいたくて、バターはしっかり使います」と話してくださいました。軽やかさの中に、ふっと広がる豊かな香り。そのバランスが三三のパンらしさにつながっています。
新横浜駅から徒歩約8分の場所にある新横浜食料品センター1階には、今年5月にオープンした「Proof Bakery(プルーフベーカリー)」があります。このお店は、三浦さんが2026年2月に設立した farine株式会社が初めて手がけたベーカリーで、ベーカリー三三で培ってきた技術を礎に、新たなコンセプトへ挑戦するブランドです。三三とはまた違った魅力があり、こちらも足を運びたくなるお店です。
一年かけて完成したクロワッサン
初めて訪れるなら何を選べばいいですか。
そう伺うと、真っ先に名前が挙がったのはクロワッサンでした。

フランスでの経験をもとに、日本の小麦で理想の味を表現するため、一年近く試作を重ねたそうです。
「これが完成するまでは、お店を始めないと決めていました」
生地を仕込み、一晩寝かせる。バターを折り込み、また寝かせる。さらに成形し、発酵させて焼き上げる。店頭に並ぶひとつのクロワッサンの裏には、 何日もの時間と手間がかかっています。
三浦さんにとっても特別な存在であることが、その言葉から伝わってきました。
パンにも旅の記憶が詰まっている
三浦さんは、韓国や台湾など海外へ足を運びながら、パンや食のトレンドを学ぶこともあるそうです。
そんな旅の経験から生まれたパンが、ハイブリッド塩パン。韓国で目にしたクロワッサンと塩パンを掛け合わせたパンがヒントになり、それを三三らしくアレンジして完成した一品です。

サクッとした食感に、バターの風味と塩気が合わさって、後を引くおいしさ。
旅先で出会った発見が、パンになって並んでいる。そんなところにも、この企画とのご縁を感じました。
フレンチのエッセンスを気軽に楽しむ
もう一つ気になったのが、 「ラム肉のラグーと小松菜ピューレのフォカッチャ」。

こちらは三浦さんのフレンチ出身という経歴を感じるパンでした。
ラム肉のラグーと聞くと、どこかレストランのメニューを思い浮かべます。そこに小松菜のピューレを合わせ、フォカッチャとして気軽に楽しめる形に。
パンでありながら、一皿の料理を味わっているような満足感があります。「今日は少しだけ贅沢したいな」 そんな日に選びたくなるパンでした。
パンを片手に、日本大通りで小さな旅へ

三三の魅力は、パンを買ったあとにも続きます。
パンを片手に日本大通りを歩く。大さん橋まで足を延ばしてもいいですし、山下公園まで散歩するのもおすすめです。
横浜スタジアムで試合がある日は、街の雰囲気も少し変わります。実際にパンを買って、公園や海辺で楽しむお客さんも多いそうです。
目的地へ急ぐのではなく、少し遠回りをしてみる。そんな時間が、旅先の散歩によく似ています。
来てよかった、と思える場所
取材の最後に、お客様へのメッセージをお願いしました。すると三浦さんは、こんな言葉を話してくださいました。
「パンを買いに来るだけじゃなくて、来てよかったなって思ってもらえたら」
その言葉が、とても三三らしいなと思います。
おいしいパンがある。
気持ちのいい街並みがある。
そして、笑顔で迎えてくれる人がいる。
ベーカリー三三は、小さな旅の途中で出会えた素敵な一軒でした。
基本情報
ベーカリー三三
【営業時間】10:00-18:00
【住所】横浜市中区日本大通33
【支払方法】キャッシュレス決済のみ
【Instagram】https://www.instagram.com/tune_tones/?hl=ja
※本記事の内容は、2026年7月時点の情報に基づいております。














