JAN!ライフスタイル【福富町の異界】極彩色のカレー・丸祇羅

【福富町の異界】撮影もスプーンも止まらない極彩色のカレー・丸祇羅はなぜうまいのか

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色鮮やかなおかずがこれでもかと並ぶ見て幸福、食べて大満足のカレー
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 横浜・福富町。欲望と日常が混ざり合うディープな歓楽街の雑居ビルに、その店はあります。ドアを開けると耳を突くのは、都会の騒音を打ち消す「蝉の鳴き声」。かつて陶芸家のオーナーが築いたその空間で、いまや全国のカレーファンが熱狂するスパイスカレーを生み出しているのが、店長の後藤淳さんです。

 大病を乗り越え、「レシピがないから毎回味が違う」と笑う後藤さんの哲学。なぜ丸祇羅のカレーは、私たちの心を掴んで離さないのか。その唯一無二の世界観を伺いました。

【インデックス】
■「プロの酔っ払い」が集うバーから始まったカレーの奇跡
■大病を乗り越えた「カレー仲間」との数珠つなぎの縁
■レシピがないからこそ旬と出会える「自由すぎる」厨房
■「食べ終えてすぐ「また食べたい」と思える味を提供したい
■盛り付けは美しく、最後はカオスに。混ぜることで完成する芸術
■店舗・スタジオ情報

「プロの酔っ払い」が集うバーから始まったカレーの奇跡

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数奇な運命によってこの地にたどり着いた店主の後藤さん。


「元々はカレー屋になるつもりはなかったんですよ」

 店長の後藤淳さんは、独特の重厚感があるカウンターでそう切り出した。丸祇羅が産声を上げたのは2018年。当時は空いていた昼の時間帯を利用した「間借り営業」からのスタートだった。場所は、横浜でも屈指のディープゾーン・福富町。

「オーナーが陶芸家で、当時はここにも焼き窯があって、外国人がろくろを回していたりして(笑)。『うちはプロの酔っ払いしか来ないから』なんて言われるような、怪しくて不思議な空間でした」

 その芸術家肌のオーナーが「スパイスカレーが流行っているから」という直感で始めたカレーが、いつしか街の流れを変え、女子高生から遠方のカレーマニアまでが階段を駆け上がる名店へと変貌を遂げたのである。

大病を乗り越えた「カレー仲間」との数珠つなぎの縁

 そんな後藤さんの歩みは、決して平坦なものではなかった。札幌出身の彼は、地元でも愛されているスープカレーの名店「RAMAI(ラマイ)」の伊勢崎店でカレー作りの経験を積んでいたが、若くして病を患い、さらには股関節の難病にも見舞われた。

「復帰まで4年近くかかりました。でも、退院後にたまたま食べに行った場所で、今のオーナーを紹介された。カレー仲間との不思議な数珠つなぎがあったんです」

 横浜の片隅で出会った「カレー」というジャンルが、彼を再びステージへと押し上げた。

レシピがないからこそ旬と出会える「自由すぎる」厨房

 丸祇羅の最大の特徴は、ほぼ毎日メニューが変わる「日替わり」のスタイルだ。驚くべきことに、そこには一切のレシピが存在しない。

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達筆なスタッフがデザインしながら毎日描いているメニュー表

「オーナーが何も教えてくれないんですよ。『適当でいい。おいしけりゃいいよ』って(笑)。だから僕は毎日、買い出しに行って、その日の旬の食材を見て決める。オーナーがこれ使っててった桃缶が余っていれば隠し味にする。やりたい放題です」

 インドでの料理教室やYouTube、あるいは高級寿司店で感じた「味感」など、あらゆるインスピレーションをカレーへと昇華させる。その瞬間にしかない食材を、その瞬間の感性で仕上げる。だからこそ、丸祇羅のカレーは常に鮮烈で、二度と同じ味には出会えない。

食べ終えてすぐ「また食べたい」と思える味を提供したい

 取材時、大手グルメサイトでの点数は「3.8」を記録していたが、後藤さんはどこ吹く風だ。

「点数が高いことはありがたいですが、重きを置いているのは、お客さんが食べ終わって外に出て、歩いている時に『あ、また食べたいな』と思ってもらえるカレーが出せること。オーナーが最初に言ったそのコンセプトこそがすべてです」

 あえて塩分を控えめにし、スパイスも重すぎないように調整する。高級レストランのような強い味ではなく、毎日でも食べられる優しくて軽い「家庭の味」を目指している。その優しさこそが、多くの常連客が週に何度も足を運んでしまう中毒性の正体なのだろう。

盛り付けは美しく、最後はカオスに。混ぜることで完成する芸術

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元は陶芸教室だったという店内、BGMは蝉しぐれ…

 熱々で提供されても、ついつい撮影をしてしまう、SNSを彩る色鮮やかな盛り付けも、実は「美味しさ」の追求から生まれた副産物だった。

「最初は意識してなかったんですが、お客さんが綺麗だと言ってくれるようになって。でも、この配置にしているのは、いろんな具材を少しずつ混ぜながら食べてほしいからなんです」

 南インドやスリランカの技法を取り入れた本格的なカレーと、和風の出汁を感じる副菜。一見バラバラに見えるそれらが、食べ進めるうちに皿の上で混ざり合い、複雑で重層的なハーモニーを生み出す。

「スプーンですくうたびに、辛かったり苦かったり、味が違う。それが面白さだと思うから」

 福富町の雑居ビル、蝉の鳴き声が響く異界の地で、後藤さんの「真っ赤な情熱」ならぬ「一期一会のスパイス」が、今日も訪れる人の心と舌を鮮やかに塗り替えていく。

【店舗情報】
SpiceCurry丸祇羅(スパイスカレーマルマサラ)
住所:〒231-0043神奈川県横浜市中区福富町仲通4−2一和ビル3階
福富町の隠れ家的な場所で、連日行列を作るスパイスカレーの名店。元陶芸家のオーナーによる独特の内装と、毎日変わる一期一会のメニューが魅力。トッピングも豊富で、混ぜるたびに新しい味に出会える。
Instagram::https://www.instagram.com/marumasala/

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大沢野八千代

1983生まれ。横浜の対岸の千葉市で、横浜ナンバーに憧れを抱いて育ったフリーランスの編集者・ライター。ハマスタでササカマにかじりついているところをテレビ中継で抜かれ、家族から指摘された過去を持つ。Googleマップのランクは7。

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